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2007年 07月 11日
![]() The Black Swan: The Impact of the Highly Improbable 予想不可能だが、一度起きるとそのインパクトが強大で、起きた原因を後知恵解釈しかできない事象を"Black Swan"と名付けて、そのBlack Swanの例示と、Black Swanに対処できないアカデミックと経済界のセレブを揶揄している本である。著者は哲学読書が趣味なので、書籍全体が衒学的なレトリックに満ちている。 これは、賛否の分かれる本であり、僕の評価は、読み始めた頃は賛だったが、読み終わった今は否である。 まず賛なところは次の通り。 俗物成功哲学への批判 「となりの金持ち」などのたぐいの、「金持ちになるには一生懸命、前向きに」とか「一円を大切に」とか、「感謝の気持ちを大切に」等の俗物成功哲学を批判し、成功者になったのは単なる確率事象でラッキーだったにほかならないということを指摘している。そして、これらの俗物成功哲学本は、成功者だけを集めた間違ったサンプリング例を示しているに過ぎず、間違ったサンプリングから得られる結論は、間違ったものを産みやすい、ということを指摘している。 人間心理の限定合理性への着眼 カーネマンとトヴァスキーのプロスペクト理論への着目をはじめとして、人間心理の限定合理性に着目し、確率や統計的なランダムネスが、人間の合理的な思考を妨げる様を言及している点はよいと思う。むしろこの点だけで議論を展開すればよかったのに、と読み終わった今になって思う。 過度に単純化させすぎる科学モデリングへの警鐘 著者は「プラトン化されたもの("Platonicity")」という用語をつくって、過度に単純化させるあまり、しばしば本質までも削ってしまう科学的なモデリングに対して、何度も批判している。確かに、過度の単純化はモデリングの致命傷であるが、問題はその単純化の「程度」について全く言及していない点はいただけない。それともお得意の「フラクタル理論」でスケールインバリアンシーを持ち出すのが狙いなのか。 懐疑主義への志向 正当な評価がされているとはいえない、ヒュームやポパー、そして他の経験論的懐疑主義哲学者、更にはハイエクなどを再評価しようとしている。 否であるところは次の通り。 似非科学により確率・統計学を根拠無く貶めている 著者はやたらにベルカーブ(正規分布)を非難する。それでその理由は、Black Swanが存在するファイナンシャルなデータやその他のデータの確率分布は、正規分布とは違って、スケールフリーなパラメータが存在するフラクタルな分布であるからだとする。でもさ、統計学の中心極限定理の本質は、個々の分布がどうであれ、標本数を十分に集めれば、その確率変数の和または平均が正規分布近似する、というものであって、だからこそ正規分布が正当な確率・統計学では大切なのだ。もっと言うと、個々の分布が正規分布に従うかどうかなんて関係ない。 仮にだ、中心極限定理を採用しなかったら、事象ごとに確率分布を決めなければいけないという、ただのパラメータフィジックスになってしまうじゃないか。特にファイナンス分野にといてファットテールを実現しようと経験論的に中心極限定理を一般化して、その事象にだけ適応できる分布関数を作り上げている人達がいるが、その人達は特殊化の隘路に嵌っていて,統一的な理論が築くことができていない。ある事象にはある分布、では科学ではない。 著者は、1989年の暴落を例にあげてポートフォリオ理論のマコービッツやシャープを「詐欺だ」と攻撃したり、LTCMの破綻を例にあげてロバート・マートンを口汚く攻撃したりする。そして、正規分布に基づく科学はダメだなんて言っているけれど、この正規分布の意味がよくわからない。もしも個々の確率変数の分布と捉えているのならば、一つ前のパラグラフで指摘したことで解決だ。しかしそうでないとすれば、中心極限定理に対して疑義を唱えていることになる。もしも中心極限定理を否定しようとしているのだとすると、じゃあ中心極限定理に代わる対案があるのか?それが、フラクタル経済学だとか経済物理学なるものだとしたら、申し訳ないが僕の中では「トンデモさんいらっしゃーい」という感じで心のゴミ箱に捨てるしかない。しかし、もしも対案が無いのなら、著者の衒学的言い方をマネていうと、「語りえぬものについては、沈黙しなければならない」じゃないのか。この「語りえぬもの」がヴィトゲンシュタインのいうところの本質的に語りえぬものか、個人の能力で「語りえぬもの」なのかは敢えて指摘しないけれど。 で、読んでいくと、これは相当のトンデモさんなようだ。著者は、フラクタル理論によりBlack Swanの予測精度を上げることができるなんて言っているけれど、本当か?万が一そのようなことがあれば、著者が大好きなノーベル経済学賞が文句なくもらえるよ。しかし、現実はマンデルブローが提唱してから40年以上経つのに一向にそんな気配すらないし、数学的にはとっくの昔に既に終わっているというのに。そう、EconoPhysicsは、似非科学として非難されているくらいだ。なにより、著者のマンデルブローマンセー主義は妙に気持ち悪い。 第一、こんなにも書いているほどに今の確率統計に不満なら、根拠無く貶めたりせずに、またこんな一般向けの書籍なぞ書いてお金稼ぎをしたり(本の中で金稼ぎには興味がないといっていのだが…)せずに、お得意のBlack Swanを捉えた一つの例を示せばいいじゃないか。著者によれば、Black Swanは至る所にあるのだから、簡単なはずだ。 このように、似非科学の臭いが強すぎて、読むのがつらすぎる。 定量的な話と定性的な話を混同している 著者は、ソ連の崩壊はBlack Swanだから予想できない、911はBlack Swanだから予想できない、Googleの台頭もBlack Swanだから予想できないとする。まあ、これらの話は、Black Swanの定義が「予想不可能だが、一度起きるとそのインパクトが強大で、起きた原因を後知恵解釈しかできない事象」なので、そう思うのも仕方ないだろう。そう、定性的な話では、Black Swanってあるよね、あるある、だけで終わる。これはつまり、飲み屋において「人生には予想ができないことがあるよなあ」と言っているオヤジの人生「哲学」と全く変わらない。 この定性的な話と、後半で出てくるファイナンシャルデータの分析から出てくるBlack Swanは、全く違う。これはいわゆる「アノーマリー」だとか、「エクストリームイベント」だとか言われている現象で、定量化して解釈することができる。実際にExtreme Value Theoryなどは、このBlack Swan様の「エクストリームイベント」を視野にいれるべく、日々奮闘しているわけだ。 そんな努力は目もくれず、著者は、「911って予想できなかっただろ?同じように株の暴落も予想できないんだよ。だってどっちもBlack Swanだから」なんて、かなりインチキな印象操作をしているのだ。著者によると、統計物理学者だけは科学者として尊敬しているようであるから敢えて言うが、統計物理学で定性モデルと定量モデルを混同することは「絶対に」してはいけないことだ。 このように、定性と定量の区別もつかない(こちらはただのアホだ)か、あるいは区別がついてもワザと区別しない書き方をしている(こちらは手段を選ばない偽善者だ)著者のクレディビリティは激しく低い。 主張の根拠が徹頭徹尾薄すぎる この本は一種のアネクドットや飲み屋話の類であって、話の根拠があまりに薄すぎる。前書きに、これは経済学の論文でないから云々というイイワケがあるのだが、正当な統計学に対してこれだけ激しい批判をするならば、その根拠があってしかるべきだ。しかし、著者はフラクタル経済学や経済物理学を仄めかすだけで、まったくその根拠を提示しない。 小話も面白ければいいのだが、どうも自分の自慢やらフランス語や哲学の知識をひけらかす衒学小話が多くてつまらない。もっともヒドイのは、哲学好きの脳神経科学者Yevgenia Krasnovaが小説家デビューして、その本が売れに売れたという小話である。この小話をBlack Swanの例として華々しく本の冒頭にあげているのだが、次の章の注でこれはデッチあげた小話だと書いてある。なんだよ、なんの意味があってこんな話だしているのか意味がわからない。最大限譲歩して考えると、おそらく自分のデビュー作がヒットしたことをKrasnovaの話に重ねたかっただけなんだろう。意味ねー。 以上のように、この本の主張は、根拠が薄く、衒学的で、似非の臭いに満ちているトンデモ本とせざる得ないのだ。この本をリコメンドしている人がいるとしたら、統計学を知らないか、経済物理学のシンパであるか、きちんと読んでないかのいずれかである。そう、超ビミョウ過ぎるシロモノなのである。
by yutakashino
| 2007-07-11 12:54
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