憲法と平和を問いなおす ちくま新書
長谷部 恭男 (著)
出版社: 筑摩書房 ; ISBN: 4480061657
気鋭の憲法学者が書いた、憲法の意義を問い直す、切れ味鋭い本。すげえ、面白かった。
世界は「比較不能な異なる価値観」をもつ人間でせめぎあっている。中世ヨーロッパのカトリックとプロテスタントの殺し合いなどからもわかるように、価値観の対立が容易に戦争や殺し合いにつながってしまう。この「比較不能な異なる価値観」のせめぎあいのなかで、価値観の異なる人間が公正に共存しうる社会生活の枠組みが、憲法であり、それを提供するのが立憲主義の立場である。それはつまり、各自が心から大切だと思っているが、同時に対立しせめぎ合う価値観は、民主主義に基づいて解決するべきではなく、そのような価値観が「公」という政治の領域に入り込まないように、きっちりと線引きをするべきだ。そしてその線引きは、民主的な手続きでさえ覆すことの出来ない「硬性」な憲法典で規定して、保障しなければならない。
これがすごく面白いのは、民主主義を保障するための条件に、「民主的でない」憲法という枠組みが必要であるという、パラドキシカルな構成にあることだ。そして、価値観の多様性を保障するためには、公的領域に比較不能な異なる価値観を持ち込まないように、価値観の多様性を制限する必要があるという、これまたパラドキシカルな構成にあることだ。
うん、憲法って面白い。