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2009年 12月 02日
NHK BS hiで放映され、各所で話題になったNHKスペシャルの「リーマン予想」の番組をみた。
自宅にはテレビがないのだが、NHKオンデマンドで見逃し番組なるコンテンツを購入できるので、今回はそれを使って視聴した。便利な時代になったものだ。ただ、視るまでに、Windowsでなければいけないとか、IEでなければいけないとか、.Netフレームワークが古いのでアップデートしなければいけないとか、Windows Media Playerが最新版でなければいけないとか、セキュリティアップデートが必要だとかで、1時間以上の手間がかかったけれど。 https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2009012141SC000/index.html「素数の魔力に囚(とら)われた人々~リーマン予想・天才たちの150年の闘い」 その視聴した内容の感想をこのエントリとしたい。僕にはいろいろなしがらみがなく、自由に書ける立場であるのではっきり書いてしまうが、あの番組の内容では90分でなく15分で十分な内容であり、あまり有益でないばかりか、リーマン予想について間違った情報と印象を与えていたと思う。 ドラマのほとんどのプロットは、カール・サパー著「リーマン博士の大予想」"The Riemann Hypothesis: The Greatest Unsolved Problem in Mathematics"であり、足りないところをマーカス・デュ・ソートイ著「素数の音楽」"The Music of the Primes"から継ぎ足し、それにファンシーなCGとオイラーの見つけたζ(2)の解説を加わえただけだと言って良いだろう。それでもπ(pi)関数を「素数の階段」と名付け、オイラー、ガウスに見立てた役者がその階段を上っていく映像表現はよかったと思う。またモンゴメリーとダイソンを交互に登場させたインタビュー映像も見所があった。しかし、その他はとてもガッカリした。 まずダメなのは、サルナックやコンヌなどの超一流の数学者をインタビューしておきながら、どうでもよい一般的な御為ごかしを言わせているところだ。そんなことは、彼らが答えるの必要がない性質の初歩的な質問だから、ワザワザ彼らにインタビューする意味がない。エリック・クラプトンにインタビューするときに、ギターのGコードの押さえ方を質問することがあまりにアホすぎることと同じである。 そして、これはサバーの本を定本としているからなのだろうが、主人公がド・ブランジュであるというのもどうかと思う。なにより、リーマン予想の特集であるのに関わらず、セルバーグやエルデシュやド・ラ・ヴァレ・プーサンやアダマールやフォン・マンゴルドやハッセやドリーニュ、そしてオドリツコが出てこないのは意味がわからない。また、ド・ブランジュが主人公になっている番組なのに、主役級のコンヌやサルナック、そしてベリーに脇役としてのインタビューをしに行く取材スタッフのあまりの頓珍漢ぶりにビックリする。例えるなら、歴代の映画俳優達の登場するムービーアクターヒストリーなる特集をするときに、その主人公をクロコダイル・ダンディのポール・ホーガンやナイトライダーのデビッド・ハッセルホフにして、アンソニー・ホプキンスやケイト・ブランシェットに脇役的なインタビューをやらせて、しかもオーソン・ウェルズに言及しないようなものだ。 サバーの原作なんてどうでもいいから、コンヌまたは、サルナックを中心にしたドラマにするべきだったとつくづく思った。モンゴメリーとダイソンの話も面白いが、サルナックとキーティングのワインの賭けの話もかなり面白いだろうし。溢れるようなお金があって、海外取材をたっぷりできるリソースがあっても、企画段階で方向を間違えていると、どうしょうもない番組になるしかないという典型である。 次にダメなのは、プロジェクトXで多用された、NHKドラマの感動の押し売り文法がここでも繰り返されている点だ。結局、このドラマというか特集は、「リーマン予想」という難問に打ち砕かれた、または打ち砕かれつつある天才数学者達の悲劇という観点から全てを解釈し直した三流人間ドラマになっていて、恥ずかしくて直視できない。感動の押し売りを行うために、リーマン予想はおろか素数の研究にもほとんど寄与していないナッシュやチューリングが殊更とりあげられているのだ。更にはハーディーとリトルウッドがリーマン予想によってその数学人生を破壊され不幸になったかのような間違った印象を与えていて見るに堪えなかった。二人はリーマン予想とは別に解析的整数論の業績としては関数等式の近似式を与えたし、リーマン予想を仮定すればπ(z)-li(z)が無限回符号を変える証明もしたし、別分野ではディオファントス近似などの業績もあるし、なによりラマヌジャンのメンターである。そしてなにより、二人ともかなりの老齢にいたるまで数学論文を書き続け、社交生活も充実した幸せな人生を送ったと言えよう。ただ、確かにリトルウッドはリーマン予想に拘っていたし、原因不明の神経症に30年ほど悩まされてはいたけれど、その神経症がリーマン予想が引き起こしたものであるという証拠はない。 更にヒドイのは事実が色々間違っていたり、インチキな印象を与えたりするところだ。チューリングが英国国民の英雄だとか、暗号のエキスパートとしてリーマン予想に取り組んだとかというナレーションがあったけれど、あれはチューリングの死後に名誉回復運動があったからこそそのようになっているのであって、生きているときに英雄だったり暗号のエキスパートとして名が知れ渡っていたわけではない。また、モンゴメリーがダイソンと話したときは、モンゴメリーがミシガンに職を得た直後のことで、「ミシガン大学から来た若いモンゴメリー」と紹介するのはどうかと。ケンブリッジ大学で学位を得たばかりのモンゴメリーというほうが正確だ。 そしてなにより「リーマン予想」と「素数の全性質」が解決すればRSA暗号が効率的に破られる、とナレーションが入ったところには思わずのけぞった。おそらく、RSA暗号の小ネタは「素数の音楽」から取ったネタなのだろうが、リーマン予想とはあまり関係がないネタなので、これは詐欺的ともいえる印象操作である。しかも、RSA暗号が破られる条件として「リーマン予想の解決」と「素数の全性質の解明」を同時に比べているところが小ずるい。リーマン予想が解決されたとしてもRSA暗号にはほとんど影響はないだろう。ただ、リーマンζをL関数に置き換えた予想である、拡張リーマン予想を仮定すれば、ある程度素数の判定が効率的になるアルゴリズムが存在する可能性が指摘されているのだが、RSA暗号が一気に破られるということにはなりそうにない。それに対して「素数の全性質」が解決されれば、そりゃRSA暗号なんてものがダメになるのは当然だろう。RSA暗号の安全性は巨大素数の合成数を因数分解することが困難であるということに基礎を置いているのだから。それにしても「素数の全性質」なんていったいなんのことだかわけがわからない。 そして最後に指摘する問題は、説明の粒度が不均一なところだ。先ほども指摘したように、リーマン予想に絡んだ数学を20世紀に強く押し進めた偉人たちはほとんど紹介しないにも関わらず、ナッシュやチューリングといった悲劇的な人生を送った人間を感動の押し売りの道具として不自然なほど取り上げ、彼らが如何にも重要かのように見せかけている点は、リーマン予想に苦闘している数学者の歴史的観点からすると説明の粒度が完璧に間違っている。また、そのようなあまり意味のないナッシュのアネクドットに拘泥する割には、リーマン予想のまさにその言明である「非自明な零点」というときの「零点」の説明はあまりにあっさりし過ぎるし、「非自明」の説明は結局最後まで出てこなかったのもどうかと思う。また、せっかく最初の方にあんなに時間を掛けて「素数階段」を大々的に導入したのに、それとリーマンのζ関数がどのような関係にあるかを示さないと、リーマン予想については、なんの理解もできたことにならないと思う。更に、ブリストルまで行ってベリーを取材しておいて、「ハートマークのビリヤード台を跳ね返る粒子のエネルギー間隔」のことをほとんど説明することなく、ハートマークのビリーヤード台の上を粒子が跳ね返るという模様をその通りのCGを見せるだけで終わらしてしまっていたのもワケがわからない。ある特定の形のビリヤード台と粒子のエネルギーの関係を示さないと、絶対にわからない。「非可換幾何」にいたっては「いわば空間がいたるところ不連続」と説明するだけで、何が何だかサッパリワケがわからない。 結局、この特集では「リーマン予想」についての正確な説明はほとんど得られない。この番組で視聴者が受ける印象は、リーマン予想は素数が絡んでいて、素数階段やζ関数の赤い点が一直線になっているCGが印象的な、多くの数学者を潰した世紀の難問で、なんとなく整数論と量子力学が繋がっているみたいだし、孤独な老人が一人で一生懸命頑張っていて感動するな、くらいだろう。そして、その原因は、制作側もそのような印象しかもってなくて最後まで制作してしまったことにあるような気がするのだ。 ---2010-08-08追記 まあ、いろいろな意見はあってもいいと思う。しかし、それも限度というのがある。最近コメントした人の中に法学に関係した人がいたからそれをネタにコメントするが、例えばだ、憲法を特集する番組を編成するときに主人公を予備校教師の伊藤真氏として番組を制作してしまうのはどういう心持ちがするのだろうか?それでも憲法という学問に対して真摯に立ち向かっていると感じるのだろうか?伊藤真氏の法学に対する真摯な態度や素晴らしい予備校の経営手腕があるとしても、その法学としての憲法への貢献度を考えたら、真っ当な法学者、法曹関係者ならそうは感じないはずだ。ド・ブランジュを主人公に据えるというのはそういうことだ。 ---2011-01-08追記 コメント欄にド・ブランジュの以下のPDFに間違いが見つかったかどうかという質問がありましたけれど、これには一切証明が書かれていないので間違いも何もあったものではありません。 http://www.math.purdue.edu/~branges/apology.pdf ここ四半世紀ほどリーマン予想を証明したという主張を何度もド・ブランジュが発するのですが、その度にこのような「エッセイ」しか発表しないので、真っ当な数学者の皆さんは何年も前からド・ブランジュを無視している状態です。それなのにあの番組がド・ブランジュを主役に据えたのは、何度も言うように、完全なミスキャストなのです。
by yutakashino
| 2009-12-02 11:19
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