3日前のエントリで、
Dreber, A. et al.の"Winners don't punish"を紹介したのだが、そのときにAxelrodの有名な「しっぺ返し戦略("Tit for Tat strategy")」について触れた。じつは、そのしっぺ返し戦略は、真っ当なゲーム理論家にとっては、お笑い話の幻想にすぎず、決して他を圧倒するような戦略になり得ないのは常識である、という話。
この話は、
Tim Harfordのブログ経由で、ゲーム理論の権威である
Ken BinmoreのAxelrodの本に対する書評にあった。なんとこの書評は10年前に書かれたものだ。まさに蒙を啓かされるとはこのことか。
実際に網羅的なシミュレーションを行うと、しっぺ返し戦略が生き残るのは20%未満、それも中間状態の一時的現象にすぎず、結局最終的には「ずるい戦略」が勝ち残ってしまうそうなのだ。
Probst, D. 1996を見ればわかるそうだけれど、現在原著はネットワーク越しでは入手不能だ。しかし、Binmoreの書評によれば、Axelrodの中心主張自体は「
フォーク定理」の変奏に過ぎないばかりか、Axelrodがゲーム理論の基本を理解していないために、シミュレーションの実施方法や解釈を間違った結果として、しっぺ返し戦略が優位に立つように見えたそうなんだそうだ。アッチャー、そういうわけだったのですか。
不思議なのは、しっぺ返し戦略が実は大した戦略でもないのに、こんなにも人口に膾炙しているか、ということだ。Binmoreが言っているのは、ネーミングの良さ、自分たちが進化論的に残っているのは「いい人」であるからという一般人が持ちがちな都合の良い正当化の意識、政治学という文脈においてのメタファーのうまい利用、他分野の権威とのコラボレーション、そして宣伝のうまさである。
なるほどね、きちんとBinmoreの著書を読んでみないと自分的な結論をつけるのは尚早だけれど、少なくともAxelrodのしっぺ返し戦略についてこれからは眉につばを付けて接しようと思う。